24人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ
1
スナック「弥生」。その名が示す通りママの名前は弥生だ。寂れた温泉地にある古ぼけた小さなスナック。
「そこで働けっていうんですか!?」
交番勤務の霞安奈は突然警察署に呼び出された。何かやらかしたのかと記憶を手繰るが思い付かない。不安な気持ちで来てみると、安奈は特別な任務を申しつかった。
「そうだ。そのスナック弥生に従業員として入り込み内部の様子を探ってくるのだ」
「潜入捜査……って事ですね?」
「そうだ」
「でも何故私が?」
まだ警察学校を卒業し交番に勤務したばかりの安奈だ。そんな新米に重要な任務が任されるとは、もしかしたら私は物凄く期待されているのかも、これに成功したら刑事になれるかも、と安奈は妄想を膨らませた。
「本来はベテラン女性警察官を使いたいところだが、なにぶんベテランともなると目付きが悪くてホステスには向かない。動作もキビキビし過ぎてスキがない。その点新米の霞くんなら警察官には見えないから適任だと判断したのだ」
褒められてるのかけなされているのか、安奈は複雑な気持ちだった。
「でも私に勤まるのでしょうか」
「君は高校時代演劇部だったそうだね。その特技を活かして頑張りなさい。それに……その体型も適任なんだ」
安奈はぽっちゃり体型だった。警察学校での過酷な訓練でさえも痩せなかった。先天的なものなのか、図太い神経の賜物なのかは定かではない。
「そのスナックでは”痩せる薬”と称して違法薬物を売りさばいているらしい。その証拠を掴んでくるのだ。頼んだよ、霞くん」
「はい! 了解しました!」
安奈はピシッと署長に敬礼をした。
最初のコメントを投稿しよう!