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サブプールに入り、大翔はゆったりと水の中でドルフィンキックを打つ。4回、5回と打った後、ゆったりと水をかき始めた。
「試合後も、練習後も、どんなに疲れていてもダウンは絶対にやれ」
以前遠藤に口酸っぱく言われていた言葉だ。決勝で惨敗した大翔は今クールダウンなんてやる気分ではない。でも今の須田コーチに代わってからも、これだけはずっと守っているルーティンだ。
200mほどゆったりと泳いだのち、プールサイドに両手をついてプールから上がった。
「お疲れ様」
声をかけてきたのは遠藤だった。隣には金メダルを首にぶら下げた賢二の姿もある。賢二の姿はとても大きく、大翔は自分の存在がとても小さく見えた。
「大翔、ひとつだけ訊く。」
遠藤は穏やかな声でそう問いかけた。
「去年表彰台のてっぺんに登ってからこの1年、他の誰よりも頑張って練習したと胸を張って言えるか?それが無理だとしても、自分ができる力は全部出し切ってこの1年間練習してきたと声を大にして言えるか?」
大翔は返答に詰まった。
「もう私は君のコーチではない。君を叱る権利はないんだ。だから絶対に怒らない。言ってみろ」
大翔はゆっくりと首を横に振った。
「だろうな……」
遠藤はぽつりとつぶやいた。
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