君を想う

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 ああ、明だ。  歌いながら観客を嬉しそうに見てる。  その動きが、止まった。  僕と目が合う。  ドラマみたいなスローモーション。  もう、見れないと思っていた笑顔。  その唇が声を出さず「トモ!」と動く。  胸を撃ち抜かれた気がした。  ひどいことをした。合わせる顔がない。  だけど全ての感情を差し置いて、「やっぱり好きだ」と、そう思った。  明は反対側へ走っていった。  興奮した後輩がバンバン背中を叩いてくる。 「ねぇ! 今主任のこと呼びましたよね!?」    痛いよ、という声が聞こえたかどうか。  僕の頬を、わけの分からない涙が伝った。  不思議ともう、苦しくはなかった。
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