30人が本棚に入れています
本棚に追加
明
「いい加減にしろよ!」
バン!
会議室の壁を叩く。視界の隅の人達が一斉にこっちを見た。
ヤバい、またやらかしてる、俺。
頭にくると周りが見えなくなる。蓮司さんによくたしなめられるのに、ガキみたいな性格が直らなくて嫌になる。
「帰ったら話そう、な?」
どうにか仁美をなだめて通話を切った。
ここは大手芸能事務所。俺がボーカルのバンド「ルミナス」はデビュー前の打ち合わせ中だ。
軽く頭を下げて俺は席に戻る。
「明くーん、大丈夫?」
プロデューサーのおっさん声に、場の緊張が解ける。
「あ、はい、すみません」
「ん、じゃあ続きね。この曲の再生回数も上がってるから、間を開けずにこっちもプッシュしたいんだ」
「そうですね。俺らも一発屋とか嫌なんで」
リーダーの蓮司さんが大人の対応を見せ、はは、とさざ波みたいに笑いが起こる。
事務所は俺のアイドルみたいな顔と、低音ボイスの激しい曲、そのギャップを全面に押し出そうとしている。音楽だけで勝負したかったけど、顔出ししたデビュー前の広告は確かに話題になっていた。
「忙しくなるから覚悟してね」とおっさんがウィンクする。
「うっす……じゃなかった、はい」
また笑い声が起こった。
ああ、イライラする。
最初のコメントを投稿しよう!