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近所のコンビニに入るまでは、いつもの日常だった。
夕食を探していると、その声が降ってきた。
「はーい、ルミナスのボーカル、明でっす!」
やや投げやりにも取れる、特徴ある声。
明だ。
僕の足が止まる。
「マサです!
ご来店の皆さまに、僕たちの新曲をお届けしまーす」
明るいマサの声が続く。相変わらずマイペースだ。
「この曲は、別れた彼女を思うラブソングです。遠くにいる誰かを思い浮かべながら聞くと、心に染みると思います」
蓮司さんの渋い声。連絡しろよと言われたのに僕は番号を変えてしまった。
「それでは聞いてください、
ルミナスで『香水』」
3人の声が揃う。
この店内放送、どこで収録したんだろう。
今はきっと、見る景色だって違う。
新曲が始まった。
僕の好きな声が、いつもより優しい口調で、曲を奏でだす。
ああ、これはバラードだ。
歌詞を書き留めるように頭の中で文字に起こす。曲が進むにつれ、胸が締めつけられる。
それに気づいた時、僕は息苦しさすら感じていた。
もっと聴いていたい、だけど、もう聴きたくない。
矛盾する感情。曲が終わった途端、僕は何も買わずにコンビニを出た。
歩調がだんだんと速くなり――やがて、駆け出す。
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