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 それから数日は大変だった。  仁美は妊娠していた。救急車で運ばれ、そのまま入院した。    事務所からはデビューはずらせない、絶対極秘にしろと言われ、双方の親には俺が報告しに行った。どっちも俺が大学も受けずに音楽の道に進んだのを良く思っていない。仁美の親との面談にはマサが来てくれたが、うちの親父からは殴られそうになり、実家を逃げるように出て、疲れたまま都内に戻ってきた。  久しぶりの部屋は散らかっていた。 「ああもうなんもやる気しねぇ」と言い捨て、駅で買った緑茶を飲み、溜め息をついた。  こんな時、トモのドラムがあったら、と思う。  あいつのカウントで、俺は音楽の波に乗る。好き勝手歌っても、リズムを整えてくれる。蓮司さんのベースが支える中、マサのギターが派手にかき鳴らされて、俺達は一体になる。 「――歌いてぇなぁ」  声に出した時、携帯が振動した。  蓮司さんからだ。 「話がある、そっち行っていいか?」 「今言えばいいじゃん」 「大事な話だ」 「……わかった」  ただならぬものを感じた。  蓮司さんはソファに座るなり、言った。 「智春がバンドを抜けた」    俺の手からするりと、ペットボトルが落ちた。  音を立てて転がり、床にどくどくと緑茶が広がる。
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