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智春
明がスタジオを出て、僕は紙コップを片付ける。中のお湯は冷え切っていた。
マサも「疲れたぁ」と帰って、僕も続こうとしたが、蓮司さんに肩を叩かれた。
「トモ、少し話せるか?」
「え……ああ、はい」
連れて行かれたのは、蓮司さんの自宅だった。
途中コンビニで酒を買い込んだのは僕の口を割らせるためだったらしい。酔いがまわった頃、蓮司さんは俺に詰め寄ってきた。
「トモ、バンドやめようと思ってるだろ」
「え?」
どきり、とした。
「いや、そんなことないですって」
「なに溜めこんでんだ。誰にも言わないから吐けよ」
「なんもないですって」
「ドラムに出てんだよ。苦しいんだろ。
明もカリカリしてるし、やりにくいんじゃないのか?」
「いや、明のせいではないです……」
「ホントか?」
ホントのことなんて、言えるわけがない。
そう思ってたのに、心が揺らぐ。
言ってしまおうか。
迷ううちに、蓮司さんはタバコに火をつけ、煙とともに深い深いため息をついた。
「――お前みたいなやつは、我慢して我慢してある日突然消えるんだ。
俺は、せめて理由だけでも知っておきたい」
僕はぎゅっと目をつぶった。
「僕、あいつのことが好きなんです。友人として、じゃなくて」
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