智春

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「そうか」  思ったより平坦(へいたん)な返事に、目を開ける。 「……驚かないんですね」 「うすうす気づいてたからな」 「引かないんだ?」  きっと、僕はみっともない顔をしている。  蓮司さんは僕の頭をくしゃくしゃとかき回した。犬みたいな扱いだ。 「それで引くほどお前のこと嫌いじゃないよ」  あたたかい言葉。喉の奥にこみあげるものを必死で飲み込む。 「……はは、『嫌いじゃない』かぁ。僕も蓮司さんみたいに人間できてたらなぁ」  僕なんか、明のことが好きすぎて、苦しくて、「どうして望みがないのに好きになったんだろう」って、怒りにも似た感情を(いだ)いているのに。  蓮司さんは、冷えたビールを僕の頬に当てた。 「なに馬鹿言ってんだ。俺は顔に出ないだけだ。びっくりはした」 「全然見えない」  僕はふふっ、と笑った。  先輩はつられて笑い、数秒後、真顔になる。 「最近の不調はそのせい、なんだな」
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