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「うわぁぁぁぁぁ」  寝ぼけた私は自分が上げた声に驚き、ベッドから転げ落ちる。  二か月前に新しい彼氏が出来て以来、ずっとこんな感じだ。  毎日のように黒猫に睨まれ  靴ひもは切れ  皿やコップをいくつも割った。  そして極めつけが、この悪夢だ。  悪夢はどんどん加速している気がする。  初めはただ彼に殺されるという夢だったのが、だんだん進化していって、今日はゾンビになった彼に食べられるというものだった。 「もー。なんなのよ、毎日毎日いー加減にしてよね!」  夢や現象にこんな風に振り回されることなど、初めてのことだった。  ホント、何したっていうのよ。  今の彼氏の、前カノの怨念とか?  うわぁ。ありえそうで嫌だなぁ。  高身長で高学歴。  どんなこともスマートで優しい彼と出会いはネットゲーム。  ゲームを通して仲良くなり、オフ会で意気投合。  そのまま私から告白する形で付き合い始めた。  なんでこんな人が売れ残っているんだろうって不思議に思うくらいの、カッコよさだったりする。 「でも好きなんだもん。前カノの呪いとか怨念なら、お祓いとかしちゃえばいいのかな」  彼におはようメールを打とうとするタイミングで、スマホが鳴りだした。 「こんな朝早くから電話?」  着信画面には母の文字。  疑問に思いつつも、私はそのまま通話を開始する。 「どしたん、こんなに朝早くに」 「起きてた! よかったよ。それがさ、お父さんが神棚にお神酒をあげようしたら段から落ちちゃって」 「えー。なにそれ」 「そんで、骨折だって」 「えーーーーー。やだ、それ。困るじゃないの」 「そーなんよ。野菜の出荷あるのに、車運転する人もいないし。病院までの往復も大変で」  母につられて、私も方言交じりに話し出す。  私の実家は、離島にある農家だった。  高校に通うために本土に渡って、私はそのままこっちで就職してしまった。  考えたら、もう数年実家には帰ってはいない。  父は今年還暦になるぐらいだったかな。  そりゃあ、足腰も悪くなってもおかしくはない年齢だ。 「んで、お父さんがあんたを呼んでくれって。落ちた時に変な夢さ見たんだって」 「夢? 何それ」 「なんか変な男に襲われて、殺される夢だって。だから死んだじいちゃんがあんたを連れ戻せって言ってって」 「やっだぁ。お父さん、ついでに頭でも打っておかしくなっちゃったんじゃないの?」 「そーかもしれねぇけどさ。あたし一人じゃなんにも分かんないもんだから、今日だけでも帰ってきてくれんかい?」 「えー。今から? だって、朝一の電車に乗って、船乗っても日帰りで帰れないじゃないの」  私の住んでいるところから港までは電車で二時間。  さらに船で一時間以上かかるところに島はある。  しかも一日二便ほどしかない船は、どう頑張っても帰りが間に合わない。  最悪、一泊はしないとダメね。  有給だって無限にあるわけじゃないのに。  ただ母の心細さも分かるし、私と同じような夢を見ていたことがなんだか気になる。 「はぁ。もう仕方ないなぁ。有給取っていくよ。お父さんのことも気になるし」 「ああ、よかった。悪いねぇ。助かるよ」 「はいはい。んじゃ、行くから待ってて」  そう言って電話を切ったあと、私は会社に事情を説明した。  ちょうど暇な時期ということもあって、数日の有給を許可された私はそのまま実家へと向かう。  大きな荷物を引きずりながら、船を降りる頃。  スマホが聞いたことのない音を上げて鳴り出した。  私だけではない。  今一緒に島に帰ってきた者たちみんなのスマホが、だ。  Jアラート。  私にはそれが全ての終わりと始まりを告げているように思えた。      
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