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「うえええっっ!! 嘘だろ!?」
ドカンっと音を立てて兵藤が廊下の壁にぶつかって床に転がった。
こんなのハリウッド映画のスパイアクションでしか見たことがない。
「くっっ、大神の野郎……」
飛び込んだ時に打ちつけて、それなりのダメージを負ったらしい。
兵藤は足を押さえて痛そうにしていた。
そこにドカドカと複数の足音が聞こえてくるのに気がついた。
ハッとした俺と、同時に気がついたのか、兵藤の目がバチっと合った。
怪我をしている兵藤は、おそらく逃げ切れないだろうと、逃げることに関して長けている俺は一瞬で悟った。
そして唯一の逃げ道もすぐに見えてしまった。
ドカドカと足音は大きくなってきて、明らかにこちらに迫ってきている。
観念した表情になっている兵藤を見て、俺は最悪なことを思い付いてしまった自分を恨んだ。
「兵藤くんっ、こっち!」
兵藤の腕を掴んだ俺は、近くにある用具入れに兵藤を押し込んだ。
この中は洗剤がたくさん入っていて、独特の臭いがしたが、そんなことは我慢してもらわないといけない。
バタンとドアを閉めてから、俺は何食わぬ顔をして、窓辺に近づいて鞄の中から本を出して適当に開いた。
間もなくして、ざっと五、六人、おそらく全員オオカミ獣人の男だろう。鼻を鳴らしながら、俺の方に向かって走ってきた。
「おい、お前! ここからヒョウの野郎が飛び込んだだろう! どこへ行った?」
「えっ……、ええと、確か向こうに走って行かれましたけど……」
物凄い形相で睨まれて、俺はもうチビりそうになっている。
いま気がついたが、本が上下逆になっていて、信じたくない光景に心臓は縮み上がった。
本能的な恐怖が体を覆い尽くして、足元がガタガタと震え出した。
「あ!? テメェ、嘘言ったら知らねーぞ! お前みたいなの簡単に骨まで食ってやるぞ!」
震えが止まらなくて、ガチガチと歯が鳴ってしまう。
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