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近づいてきた男に、クンクンと匂いを嗅がれてしまった。
洗剤クセぇと言われて、オオカミ獣人達はバタバタと足を鳴らして俺が示した方に走って行ってしまった。
ホッとして床に崩れ落ちたら、そこにガチャっと音がして用具入れのドアが開いた。
中から兵藤が出てきたのを確認したら、俺は何をしているんだろうと泣きたくなってしまった。
「お前……、なぜ俺を助けた?」
兵藤の問いに、俺だって同じことを自分に聞きたいと思ってしまった。
以前の自分だったら間違いなく、あの場から逃げて、何も見なかったことにしたはずだ。
触らぬ神に祟りなし。
それが俺の処世術だったはず。
それがなぜ、兵藤が大勢に襲われるのを黙って見過ごせなかったと言えば、それは亜蘭に出会ったことが大きいかもしれない。
亜蘭の神の如き神聖な輝き、俺はそれに当てられてしまった。
助けてくれてありがとう。
亜蘭に何度もそう言われる度に、自分が聖人にでもなったつもりになっていた。
清らかさの属性をプラスされた俺は、困っている人を見捨てる選択ができなくなっていた。
「別に……困っていそうだったから」
「それだけで? お前、草食系だろう? よく肉食系に立ち向かえたな」
「こっ、怖かったよ。当たり前じゃないか! もういいだろう、アイツら行っちゃったし、反対側から行けよ」
いまだにガタガタ震える手をぎゅっと握りしめて、俺は兵藤に背を向けて歩こうとした。
「おいっ、待ってくれ」
「なんだよ? まだ何か……」
「ついでにちょっと肩を貸してくれないか? さっきの着地でこっちの足をやったらしい」
冗談じゃないとため息が出そうになった。
なぜ俺がそこまでしないといけないのかと嫌でたまらなかったが、これまた本能的な恐怖のおかげで怒られたくなくて、俺は仕方なく兵藤に肩を貸すことになった。
「救護室まで連れて行ってくれたら助かる。ウチの専属医を呼べば、少し折れたくらいならすぐに治る」
どういう体をしているのか、謎すぎて理解できない。もうこの世界はそういうものなのだと自然と納得するクセがついた。
幸い救護室は同じ建物にあるので、その階まで兵藤の腕を肩に乗せて、支えながら歩き出した。
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