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⑦わるいこ◯
『そんな残念なタヌキのアナタのラッキーへのカギは……』
悪いヤツらに囲まれて、兵藤は負傷で使い物にならない。
大ピンチの状況で、頭の中にぐるぐると今朝見たテレビの占いの光景が回っている。
もう少しで思い出せそうだ、というところまで浮かんできたが、そこで変な空気に包まれていることに気がついた。
周囲の視線が俺に集中していて、みんな心なしが頬を赤らめていた。
「おいおい……、タヌキか。タヌキは性欲が少ないって言うが、ヤル気満々じゃねーか」
「マジかよ、すげぇ淫乱だ」
物凄いことを言われている人がいるなと思ったが、タヌキというワードにピンと耳が立った。
ん? 耳?
「……うえ!? 俺!?」
痛いくらいの視線を浴びて、慌てて頭の上を触ったら、なんと耳が出ていた。
家族のような親しい間柄以外、他人に獣化を見せるのは、今の世の中では相応しくなく、裸になるような行為。
それは、性的な強い誘惑を意味する。
母親の言葉が頭に響いてきた。
大人はコントロールできるので、この状況、意識的に出していると思われて、致し方ない。
「落合、お前、ちょっ、こんな大勢の前で……」
兵藤にまで言われてしまい、慌てて引っ込めようとするが、パニックになって上手くいかない。
「ちがっ、これはそういうことじゃなくて! 変な意味はなくて勝手に……」
「いいぜ、興奮してきた。ダサいし好みじゃねーけど、遊んでやるよ」
手を振って違うとアピールしているのに、目をギラつかせて、涎を垂らしながら大神が近づいて来た。
嘘だろう! 勘弁してくれ!!
そう叫びたいのに、口が震えて上手く言葉が出てこない。
その時、今朝の占いの声がクリアに聞こえてきた。
『残念なタヌキのアナタのラッキーへのカギは……、迷わず、胸に飛び込むこと!』
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