354人が本棚に入れています
本棚に追加
目に入ったのは、大神のザックリ開いたシャツから見える広い胸だが、そんなことは絶対にありえないと身を震わせた。
「う……うそ、や……それは、無理っ、なんで胸!? 全然ラッキーじゃないーーー!」
「ごちゃごちゃうるせーな、少し黙れ」
終わった。
俺の何かが、今日確実に終わる。
世界が真っ白に染まりかけていた時、視界の端に反対側の廊下を歩いている亜蘭の姿が見えた。
まるでスローモーションのように、日差しを浴びながらキラキラと輝いて見えてしまい、まさしく天使がやって来たのだと俺はピョンっと飛び跳ねた。
「亜蘭ーーー!」
力いっぱい叫ぶと、通り過ぎようとしていた亜蘭が足を止めて、くるっとこちらに向かって振り返った。
この中で飛び込む胸があるとしたら、亜蘭の胸しかありえない。
しかし、一瞬迷ったのはある。
俺と亜蘭は昼寝の時に枕代わりになるだけの関係。
亜蘭からしたら、そのくらいの相手を助けるために、面倒なことに巻き込まれたくないと思うかもしれない。
状況を察しても、俺が近づいたら逃げられる可能性が……
『迷わず、胸に飛び込むこと……』
あーもう! やるしかない!
走り出した俺は、スライディングして大神の股下をすり抜けて、勢いのまま立ち上がって亜蘭に向かって走り出した。
運動は苦手だが、逃げ足スキルはかなり優秀だ。
走ってくる俺を見て、亜蘭は目を見開いていた。
そりゃそうだ。
耳を出した、こちらの常識では、恥ずかしい格好をしたヤツが走ってくるんだから……
拒絶されたらどうしようかと不安しかなかった。
亜蘭は途中で後ろにいるヤバいやつらに気がついたのか、ニコッと笑って手を広げてくれた。
やばいっ、やっぱり亜蘭は天使だ。
こんな俺のことを、助けてくれるなんて……
俺は亜蘭の胸に向かって飛び込んだ。
最初のコメントを投稿しよう!