②しらない世界◯

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 こっちで色々と調べてみたところ、世界変わりと呼ばれる同じような話が、都市伝説的にひっそりと広まっているようだ。  それによると、突然意識だけ別の世界から来たという人は、二度と元には戻れないそうだ。  つまり、俺はこのヘンテコな世界で生きていかなくてはいけない。  分かっている。  これは夢だとか、何考えているんだと何度も否定してきたが、どう足掻いても現実は変わらなかった。 「ねぇねぇ見て、あのお兄ちゃん、お耳が出てるよ」 「本当だぁ、大人なのに、恥ずかしーー」  登校中の小学生の集団が俺を見て笑ってきたので、慌てて頭に手を当てると耳が出ていた。  急いでパーカーのフードをかぶって下を向いた。  最悪だ。  この世界の獣人達にとって、元の動物の姿を見せることは、人が外で素っ裸になるような恥ずかしいことらしい。  つまり、赤ん坊や小さい子が耳や尻尾を出していても、その未熟さが可愛いと言われるが、大人になって外で出していたら、なんて恥ずかしい人だと驚かれるのだ。  早いと獣化のコントロールを小学生の頃に習得して、高校生になる頃にはほとんどの者がヒト型完全体になって、人前でポロリなんてことはなくなる。  年配の人になると、わずかな本能だけ残して、自分が何の動物だったか忘れるくらい変化することはないらしい。  俺はパラレルワールドにいる俺に意識が憑依してしまった。  その状況で、見よう見まねで何とか耳を隠すことには成功したが、気を抜くとすぐに出てきてしまう。  継続して隠し続けることが難しい。  しかも時には別のところまで……  目立たず生きてきた俺が、こんなことで目立つなんて絶対に嫌だ。  恐る恐る顔を上げると、横断歩道を渡る先ほどの小学生達と目が合ってしまった。 「バイバーイ、タヌキのお兄ちゃん」
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