表裏の約束

2/11
11人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
車窓から海が見え始めた時から ワクワクが止まらなくなって 小さな無人駅に着いた途端飛び降りてしまった。 駅は高い台にあり、そこから見える海が 日の光に反射し眩しいくらいに光っている。 「うわ、綺麗」 潮の匂いと森林の清々しい空気を 思い切り肺に取り込みつつ背伸びをすると、 いま求めているモノが全部ここにある気がして 迷わず降りた自分を褒めたくなった。 駅から町へ向かう道なりは緩やかで 高い建物が無いがかといって寂れている感じも受けない。 のんびり過ごすのには、まさに丁度うってつけの場所だ。 (うんうん、いいな) 小さい港にはたくさんの漁船や小舟が停泊していて 明日釣りでもしょうかと考えながら、 一通り街を見て回った頃には すっかり日も高くなっていた。 (だいぶ歩いたから流石にお腹すいたな) 食堂か何かと探そうとした その時、鼻腔をくすぐるような焼き立てのパンの香ばしい匂いと コーヒーの香りが漂って来た。 僕は無意識にその匂いを辿っていたのだと思う。 「こんにちは、 もしかしてお腹すいてる?」 そう声を掛けられて 初めて自分が知らない民家の庭に入り込んでいるのに気付いた。 「あ!!スミマセン! すぐ出ていきます!」 「待って、行かないで。 良かったら寄ってかない?」 ―――気付くわけがない。 これが全ての始まりだったということに……
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!