騎馬民族はパンツ派だ!

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騎馬民族はパンツ派だ!

221P <24章 乗馬が先かパンツが先か> ペルセポリスのダリウス宮殿の遺跡(紀元前6世紀)の(中略)馬とともに朝貢する騎馬民族サカ人の姿が浮き彫りされている。サカ人は明瞭にズボンとわかる服装をしている。 ズボン=パンツの普及が乗馬の普及とほぼシンクロしていたことを物語る貴重な資料のひとつだ。 中略 225P とくに長ズボンはステップ地帯の乗馬の慣習と不可分に結びつき、北方ユーラシアの冬季における防護服としても機能し、遊牧民の長距離移動の生活を通じて、南ロシアから興安嶺にかけてひろく分布するようになった。 中略 ズボンは古来男の独占物であったというより、<馬に乗る人間>の独占物であったといえよう。 こうして東方ステップの遊牧民起源のズボンは、蹄鉄や鐙など鉄の文明とともに、まず<馬に乗る人間>、すなわち騎士の習俗として中世初期ヨーロッパに伝えられ、やがて馬耕の普及もあって、農村社会にも広まっていった 井上康男「世界大百科事典 平凡社」 ここで筆者は、乗馬の必要性からズボンが発明されたことに疑問を呈している。 230P フランス南部やスペインに残された後期旧石器時代の遺跡に、毛皮をまとった人や、毛皮のズボンを付けた人が確認されているので、ズボン形式の衣服の誕生は、今から3万年前から2万5千年前の石器時代にさかのぼるといって間違いない。 しかも針(獣骨)があり、彼らはこれで裁断された獣皮や毛皮を縫う術を心得ていた。 さきにパンツありき <考察> ズボンと騎馬民族の台頭、そして衣服の本流はスカートで、ズボンは遊牧民のユーラシアからやってきている。 スカートは女子、ズボンは男子という、ジェンダー的なくくりはよっぽど後のことだった。 服飾衣装史はたくさんあれど、これほど豊富な文献、民俗学、世界史まで視野をひろげているのは、すごいとしかいいようがない。 それも下半身をおおう布というテーマだ。 針は、人類の記念すべき道具とも評価されている。 あとがきを読むと、この時に著者が卵巣がんの診断を受けて、再発していることにふれている。悪性度が高く、人生のカウントダウンにはいてしまったと。 すでに余命宣告をうけていたのだろうか。 そんななかで、これだけの資料と格闘し、アカデミックに仕立て上げたこの本はすごさを感じる。(引用文献142だよ) 本の題名が柔らかめなので、軽いエッセイと思いがちだが、中身の濃い学術論文的内容なのだ。 著者は2006年5月に死去されている。享年56歳 まだまだ書きたいものをたくさん持っていた作家さんであろうが、本当に残念に思う。 合掌 図書館でしか出会えない貴重な本のひとつだと思う。
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