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デザートまで全部食べ終えて、残ったワインを飲みながら、咲来は不意に疑問を抱いた。
「そういえば、丁寧語って続けるんですか?」
咲来の後輩になることを間接的に伝えるのが目的だったのだとしたら、その必要が無くなった以上、丁寧語をやめてもいいのではないかと思った。
「全然突っこんでくれないから、どうしようかと思ってたよ」
ワイングラスをテーブルの上に置いて、後藤は独り言のように呟いた。
「いいんですか、やめても。会社に入ったら後輩ですよ、俺」
「い、いいですよ。大学では先輩なわけですし。そもそも、付き合ってるんだから……」
「それだったら、ササラちゃんも丁寧語やめてね」
急にタメ口になった彼に、咲来は何だかドギマギした。
「それとこれとは話が違ーー」
「違わないよ。もうホント、ずっともどかしかった。付き合ってんのに距離がある感じがして」
「それは、後藤さんがーー」
「そうだ、その後藤さん呼びも禁止だから。なんて呼ぶ?ていうか、俺の下の名前知ってる?」
ぐいぐいと距離を詰めてくる後藤に、咲来は逃げ場もなく俯いた。
「し、知ってますよ。と、智也さんでしょ」
「うん。それで?」
「だから、と、智也さん」
咲来の精一杯の呼び方に、
「まあ、今はそれでいいことにするよ」
と、後藤は妥協した。
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