始まった少し先で

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「それにしても、ササラちゃん全然酔っ払わないね。楽しみにしてたんだけど」  ワイングラスを片手に、後藤が残念そうに言った。 「だって、こんな高そうなお店で、酔っ払うほど飲めない……」 「何だ、遠慮してたのか。俺んちで飲み直す?」  なんちゃって、という声が聞こえてきそうなくらい、おちゃらけた調子で後藤が言うのを、 「うん」 と、咲来が応じたから、彼は動揺して赤ワインをこぼした。白いセーターに赤い染みが広がっていく。 「ちょ、セーターが、洗わないと」  咲来が慌てて立ち上がると、後藤も立ち上がった。 「うん。俺んち行こう」  外に出ると、冷たい風が吹き付けて、咲来は後藤の腕に抱きついた。 「ねえ、ササラちゃん。すっごいベタなこと言ってもいい?」  歩き出しながら後藤が言う。 「何ですか?」  丁寧語が抜けない咲来に、後藤は甘い声で囁きかけた。 「今夜は、帰したくない」 完
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