81人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
すると宥めるようなキスが額にひとつ、ちゅっと落ち、真綿でくるむようにぎゅっと優しい大きな手が綾都を抱きしめた。
「綾ちゃんを泣かせる俺、まだまだ全然ダメだなあ」
頭上で、ぽつり悔しそうにハルが顔を歪める気配がした。
綾都はさらに泣きたくなって、もっともっと声をあげて泣いた。
あざといどころか、これじゃあ嫌われて、あっけなく捨てられるのがオチかもしれない。
けれど積りに積もった不甲斐なさが、山火事のように次から次へと綾都の心に拡がっていく。
泣くことで解決できるなんて絶対に許されないことだとわかっているが、もうダメだ。
止まらない。
「ごめんね」
謝るのは綾都のほうなのに、ハルが謝罪する。
「知り合ってからずっと、綾ちゃんにふさわしい人になれるようにって、少しでも綾ちゃんの好みに近づけるようにって、俺、頑張ってきたのに……」
大きなため息をつき、綾都の背を撫でるハルの手にきつく力が込められた。
なんでも許してくれる男を、綾都がとうとう困らせたのだ。
泣きながら最悪の事態を思い浮かべて、でも涙が止まらなくて、成すがままに泣く。
「毎日笑わせるどころか、とうとう泣かせちゃったね」
後悔の入り混じるハルの声。
早く、なにか訂正の言葉を言わなければ。
頭では分かっているのに、嗚咽しか出ない。
「無理して喋ろうとしなくていいよ。だから、代わりに俺の話……聞いてくれる?」
とても温かい声だった。
打算とか、甘いとかなく、ただ慈愛に満ちた温かいハルの声。
だから余計にハルの「頑張ってきた」の言葉が、今までのあざとい綾都という人格を大きくえぐる。
うん、と頷く勇気がなくて、そっとハルの顔を見上げた。
にこりと笑むハルが視界へ入り、大きくしゃくりあげた嗚咽が自然と止んだ。
最初のコメントを投稿しよう!