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「抱きつきますじゃなくて、もうすでに抱きついてるだろ? 訂正しろ」
横柄な態度を取ったって、いつもハルは怒らない。
綾都のことだって、多分大きい亀裂が入らない限り嫌いになんかならないだろう。
長い付き合いだから、ハルがどう行動するのかもなんとなくわかる。
それもこれも、海千山千乗り越えた綾都自身がハルに好かれ続けるために、素直さを捨て、緻密な「あざとい」を修得したせいだ。
不意にハルが綾都の肩口へ顔を埋める。
この後ハルは、しきりに額を擦りつけながら綾都へ愛のかぎりを叫び始めるだろう。
これも予想通り。
計るように綾都は心の中でカウントダウンを始める。
五、四、三、二、一。
「綾ちゃん! 好き、大好き。愛してる。マジで好き。めっちゃ好き」
……ほら、ね。
ハルからの愛をたしかめるように、いつも綾都はわざと突っぱねた。
こうでしか相手の心を引き留められないなんて、本当にかわいくないななんて思いながら。
「はいはい。ひっつき虫の春祈くん、それは訂正じゃなくて愛の告白というものだよね」
呆れた顔して諭すのもいつも通り。
「うん、そうだね。そのつもりで言ったし、なんならこれからチューまでするつもりなので、それもついでに宣言しておきますよ」
向こうも綾都が嫌がる素振りを見せるのをわかっているから、わざと口を尖らせ横からキスを迫ってくる。
「チューの宣言はいらねえだろ」
「いや、いらなくないです」
きっぱり反論され、内心綾都はうっそりと笑む。
「だって言っておかないと、あとで綾ちゃんにグチグチ文句言われそうなので」
言うワケないし。
むしろ嬉しいしかないし。
なんてことは、恋愛ハウツー本を片っ端から読み漁った綾都としては絶対に外へは洩らせない本音だ。
だというのに、不安は尽きない。
尽きないどころか、年々増えていく。
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