なにもかも、ぜんぶお前のせいだ。

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「さすがにキスまで宣言されたらムードもへったくれもねぇだろ?」 「ふぅん」  気のない返しをしたハルは、さりげなく綾都の身体から腕を放す。と、その先にあるビルトイン型コンロのボタンをオフにした。  キス以上のことをするのだろう。  暗黙の了解として、綾都もレードルをキッチンへ置く。 「じゃあ、ムードがあれば宣言しなくてもいいってことだよね?」  それからすぐにハルの手が綾都の頤を取り、流れるように後方へとひねった。  湿った吐息同士が触れ合う距離まで近づく。  宣言なんて本当はいらいない。  ハルからのキスだったらいつだって歓迎だ。  だというのに、口が滑る。  これじゃ、あざといよりもただのツンだけだ。  本気でかわいげのない男である。 「そういう意味に捉えるかよ」  長く続きすぎた大人の恋愛なんて、たいてい互いの努力の上に成り立ってんだからもう少し可愛げを見せろよと、綾都はセルフ突っ込みし自嘲する。 「俺、バカだからそう捉えちゃったけど」 「相変わらず自己中ヤロウだな」 「綾ちゃんのことが好きだから」  吐息交じりで満足そうにハルが呟くから、危うく顔を紅く染めそうになる。  とりあえず綾都は必死に脳内で円周率を唱えていく。  あ、今は3.14じゃないんだっけ……とか考えながら、綾都は両手で顔を覆った。 「どうしたの?」  綾都の気も知らず不思議そうに訊ねてくるハルに、あざとさのメッキがべろりはがれそうだ。  そんなことがあったら少しでもハルをつなぎとめようとする、長年の企業努力も水の泡。 「……そろそろ成長しろよ」  情けない綾都自身へ小さくため息をつき、向き合うように自らの額をハルの額へ擦りつけた。  はっと眼前のハルが微かに息を呑み、目許を少し赤らめる。  ああ、好き。  かわいい。  ハル、好き。  今にも飛び出しそうな感情を押さえようとして、夢中で額を擦りつけた。
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