なにもかも、ぜんぶお前のせいだ。

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「というか、俺が綾ちゃんとキスしたい。濃厚なヤツ」   甘ったるい、最高糖度をかもしだすハルの声。  ムカつく。  綾都の気持ちなんて全然知らないクセに、キスなんて。  どれもこれも、全部ハルが悪い。  ハルが怒らなくて。  優しくて。  愛してくれて。  機嫌が悪いとキスとハグして甘やかしてくれて。  出逢った頃から今も、ハルの全部がなにもかもドストライクのせいで、綾都の心をずっとずっと捉えて離さないせいだ。  いや、違う。  違うんだ。  努力の方向性が。 「……意地、悪」  ぽろりと頬を熱いものがこぼれ落ちる。 「綾ちゃん?」  ぐすっとはなをすすり、きつく床を睨んだ。  ハルが驚くのもムリはない。  知り合ってから十年、あざとさを追求した結果、本気の泣き顔なんて見せたことがないのだから。 「もしかして……一週間の出張が長すぎて、独り淋しい思い、させちゃってた?」  とんちんかんなことをハルは言い出す。  勤続六年の営業マンの出張なんて、今に始まったことじゃないのに。 「それともキッチンでサカったから?」  それも、いつも通りのことだ。  バカ、違う、と口にしたかったがとめどなく感情が溢れてきて、綾都自身収集がつけられなくなっていた。  どうして急に、と困惑する。 「え、っと無駄遣いしすぎたから?」  フリーのライターで細々稼ぐ綾都より、バリバリ営業マンで頑張っているハルのほうが稼いでいるのだから、口出しなんてできる立場じゃない。  けれど、いつもハルはそういうこともひっくるめ、すべて綾都の好きなようにさせてくれる。 「綾ちゃん、どうしたの? 泣かないでよぅ」  そわそわしながらハルの温かい手が、上から下へ綾都の背を何度も優しく撫でる。  素直じゃない、あざとい方法でハルを引き留めようとする綾都に。  だからこそ、今まで目を背けてきた自分の不甲斐なさが浮き彫りになって余計に泣けてくる。  びえ、と声をあげて綾都は泣く。  ダメだ。  今の綾都じゃ、ハルにふさわしくない。  言葉にできない代わりにひたすら泣く。  ハルは呆れただろうか。    
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