なにもかも、ぜんぶお前のせいだ。

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なにもかも、ぜんぶお前のせいだ。

「ただいまあ」  わしっと背後から二つの逞しい腕が伸びて、晩ご飯の支度中だった綾都(あやと)は羽交い絞めされるように抱き締められる。  瞬間、レードルを持つ手が大きくぶれ、なだれこむように後方へとバランスを崩す。 「こら、ハル!」 「いいじゃん。早く綾ちゃんにくっつきたかっただけなんだから」  咎めるような口調も嬉しいとばかりにハルと呼ばれたスーツの男は、へへへと嬉しそうに身体を揺らして悪びれもなく笑った。 「今日はロリオリのハートフロマージュ買ってきたよ」 「は? なに無駄遣いしてるんだよ」 「ムダじゃないよ。綾ちゃんの喜ぶ顔が見たかったから」  とん、と綾都越しに大きなケーキの箱をキッチンへ置いた。  途端、フゼア系のセクシーでダイナミックな芳香がふわりと香る。  朝出勤するときは、すかっと爽やかな香りしかしないのに、一日外で働いてくると、ラストノートがいい感じに大人のセクシーさをまとわせてくるからどうしよもなく戸惑う。  いい匂い。  好き。  しかも、つき合い始めの頃は似たような細身の体型だったのに、営業職で多忙なクセに、いつの間にか胸板も腕も綾都より逞しくなっているから、より困ってしまう。  細身のハルも好きだったけれど、今のハルのがっちりとした体形も綾都の好みに仕上がっているから余計。  そんなわけで自分への戒めも込め、今日もハルに注意する。 「いつも言ってるだろ? 無駄遣いとキッチンで火を使ってる時は、背後からいきなり抱き着くの禁止だって」  自分のものだと言わんばかりに、すっぽり大きな腕で囲うハルをじろり尻目で一瞥した。 「わかった。じゃあ、綾ちゃんに抱きつかせていただきます」  予想通りハルは無駄遣いのところをスルーし、堂々抱きつき宣告をしてきた。  それからすでに綾都の身体へと巻き付いていた逞しい腕へ、さらにぎゅっと力を込める。  ハルからのこのぎゅっ、がたまらなく好きだ。  大学入学と同時にハルと知り合い十年。つき合うようになって五年、同棲するようになってからは三年。  二十八歳のフリーライターである綾都は、年々高まるハルへの好きな気持ちとは裏腹に、素直でいられなくなってきていた。
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