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002
あの国で、姉だけが私の味方だった。
ご飯も服も、生きる術も。
一人で死にかけていた私を救ってくれた唯一の人。
だけど今戻ったら……。
夢も、彼も、全て裏切ることになる。
「リア様の今のお立場も理解しているつもりです。そして嫁ぐということがどういう意味なのかももちろん理解しています。ですが!」
必死なライザの顔。
大切な主を守るため、主に止められながらも私を探し出した。
きっと簡単なことではなかったはず。
そして命令を無視し私を国に連れて行けば、姉から自分は解雇されるかもしれないのに。
それでも全ては姉を守るため。
ある意味、護衛騎士の鏡とも言えるわね。
「私には夢があるの。冒険者としての、夢」
そうこれは私と、彼との夢。
お互いソロで冒険者をやってきて、ランクを上げるためだけに組んだ二人パーティーだけど。
いつしかお互いになくてはならない存在となり、かけがえのない人だ。
彼とS級ランクの冒険者になるために、今までずっと頑張ってきたというのに。
「それも承知しています。リア様がA級冒険者となられ、あとは推薦さえあればS級冒険者となれることを」
「よく調べたわね」
「すみません」
「ですが、わたくしならその推薦を渡すことが出来ます」
「それと引き換えに、嫁げと?」
「すみません」
実際、S級ランクになるのはもう諦めていたところだった。
だってなるには、S級冒険者からか貴族からの推薦がなくてはいけなかったから。
私たちはS級の実力があったとしても、永遠のA級ランクなんだって。
二人の夢のS級。
私がここで嫁ぐと言えば、なることが出来る。
「まるで脅しみたいね」
ややため息まじりに、私は笑った。
「すみません」
「ああ、別に責めてるワケじゃないのよ」
「でも同じことです。自分でもそう思います。思うのですが」
「あなたには他にどうしようもないからね」
「すみません」
推薦することが出来るということは、ライザは貴族ということなのだろう。
それなのにたいした身分もない私に謝りっぱなしね。
「そんな推薦ごときに命をかけるなど……」
「それは違うわ。私たちにとっては、命なんかよりももっと重いものだから。ずっと憧れだったの。力以外なにも持たない私たちにとって、コレでどこまで登り詰めることが出来るのかってことが」
「……」
「だからそうね。私の身一つで彼がS級になれるのなら、それも安いものかもしれないわね」
きっと彼は……コウは怒るだろうなぁ。
私の犠牲の上に自分がSランクになれたなんて知ったら。
でもこれは私の夢でもあるから。
だからいいよね。
私がなれなかった代わりに、コウがS級になる。
そんなことを願ってしまっても。
「出発はいつ?」
「出来ればすぐにでも」
「では明朝。それまでにギルドには彼の分の推薦状を提出して」
「お1人分でよろしいのですか?」
「今から敵国に嫁ぐというのに、ランクはもう関係ないでしょ」
私はA級のまま。
でも取り残されるわけじゃない。
コウと離れてしまっては、もう上を目指す必要もないから。
だから彼といた時間のまま、私のランクは止まればいい。
私はライザに明日の出発を約束すると、コウのいる宿に戻った。
コウには別れを告げるつもりはない。
このまま。いつもと同じまま、朝を迎えたかったから。
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