キネを返してください

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キネを返してください

 キネは病気で苦しそうだった。  がんばって生きたところで、治る見込みもなく、近いうちに命の灯が消えゆくのは目に見えていた。 「こいつはどうせ死ぬよ。今なら、こいつの命と引き換えに、こいつと瓜二つの猫をおまえにあげるよ。その猫はとても健康で、長生きする。どうする?」  奇怪な男だ。いや、男に見えるだけで、そうではないのかもしれない。そもそも人間なのかどうかも疑わしい。 「本当にキネとそっくりの猫? 見わけもつかないくらい?」 「ああ。そうだ。DNAも同じだ。ほとんどクローンみたいなものだ。ただ、同じ命ではない。そっくりだが、ちがう猫だ。さあ、どうする?」 「……わかりました。キネの命と引き換えに、瓜二つの猫をください! お願いします! どっちにしたってこの子はもう亡くなるだけなんです。それも苦しんで。それなら、同じ健康な猫と引き換えてください!」  今となっては、なんでそんなことをお願いしたのかわからない。わたしの判断のもと、即座にキネは息を引き取った。安らかな、お顔だった。けど……。 「おまえは、だれ? キネじゃない。キネじゃないじゃんか! おまえは、全然別の、ちがう猫だ……!!」  見た目はキネそっくり。でも、キネではない。キネでは、ないんだ。  なんてことをしてしまったんだろう。キネの命と引き換えに、目の前には知らない生き物が……。
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