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エピローグ
「あー、そこ!角当たらないように気をつけて!」
理恵の厳しい声が飛び、搬入のスタッフに緊張が走る。
季央が大学三年になった年に、個展が開かれることになった。
これまでも、昔ながらの製法に、独特のやり方を用いた季央の絵画は、日本画の世界で密かに注目を集めていた。
今回の個展は、これまで描き貯めていた物を一気に公開する、と言う事で、海外から観に来る人達もいるらしい。
季央の個性もあるが、理恵の画商としての敏腕さに、直人は舌を巻いていた。
「けど、これ欲しい人がいたらみんな売っちゃうの?」
直人は、横にいる季央に尋ねた。
「ああ。金、欲しいし」
「そうなんだ」
季央は、直人の手を取り、画廊の奥に進む。
その一角に、間接照明によって、美しく照らされている絵があった。
「これだけは、絶対に売らないけどな」
季央の手が更に強く握られた。
装飾された直人の絵は、自分で言うのもなんだが、結構美しく見えて照れてしまった。
すると、すぐ後ろで「ああ、貴方が」と女性の声が聞こえた。
二人で振り返る。
「母さん…」
季央が呟くと、その女性の目がみるみる涙で溢れ、零れ落ちた。
「季央のこと、好きになってくれてありがとうごさいます。これからもよろしくお願いしますね」
季央の母親に頭を下げられた。
「あ、は、はい。こちらこそ…」
直人も頭を下げる。
「父さんは?」
季央が尋ねる。
「ふふ…恥ずかしいんじゃないの?」
季央の母親は、涙を拭い、振り返った。
「あそこで1番値段の高いやつ売約済にして、すぐに帰ったわ」
「そうなのか?」
季央は、出入口のほうを見た。
「父さんにありがとうって伝えといて」
ぶっきらぼうに季央は言って直人の手をまたキュッと握る。
「分かったわ。じゃあね、個展の準備、邪魔しちゃってごめんね」
そう言って母親は帰って行った。
「良かったね、季央」
直人が見ると季央は、目に涙を溜めていた。
考えてみると、落ち着いて見えてもまだ二十代前半の青年なのだ。
両親に理解されなくて辛かったんだろう。
「季央」
「ん?」
「今夜、また一緒に寝ようね」
直人が言うと、季央は「直人、えっろ」と言って涙目のまま笑った。
―Finー
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