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キッチンで使うものや、とりあえずの生活用品は持ってきたので、あるべき場所に設置してゆく。
直人は、少しずつ自分だけのお城が出来てゆく様で嬉しくなった。
トイレットペーパーを取り付けたり、シャンプーやボディソープ、タオル類も閉まってゆく。
当たり前にある生活用品も、最初はこうやってセットしてゆくのだと、直人は今更ながら生きてゆく大変さを思っていた。
「さて、そろそろかしら」
母親が腕時計を見ながら言った。
「え?何が?」
直人は、母親の顔を見る。
「今日、ひとりお見えになる予定なの」
「え?もう?」
汚れてもいいようにと、着古した高校時代のジャージを着て来てしまった。
「そうならそうと早く言っといてよ」
「あら、ごめんね」
母親は、寝癖で跳ねている直人の髪をツンと引っ張りながら笑っている。
「ジャージでも直人は可愛いから」
まったく…いつもこうなんだから
母親に振り回されるのは慣れているとはいえ、さすがに初対面の人にこの姿は少し恥ずかしい。
洗面所で髪を少し濡らしていると、ピンポン!と勢いよくインターフォンが鳴った。
はあい、と、母親の浮き足立つような声が聞こえる。
直人も慌てて髪をわざと乱して寝癖を誤魔化し、玄関に向かった。
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