プロローグ

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プロローグ

「…でね、おじいちゃんからの遺言で」 母親が神妙な顔つきで話すのを海堂直人(カイドウナオト)は物語でも聴くように聴いていた。 100坪ほどの土地に建つ大きな一軒家。 この家の管理を直人にして欲しいと言うのだ。 「管理するったって…」 海堂家は都内に住んでいる。 隣の県であるここに1人暮らしだなんて。 「会社を辞めて、ここに住めばいいんじゃない?家事は教えてあげるから」 確かに今の仕事は、ちょうど辞めたいと思っていた。 セクハラが酷い上司がいて、ちょっと可愛い顔をしている直人は、毎日その上司にお尻を撫でられて辟易としていたのだ。 「けど家は、お金を作ってくれないだろ?」 「そこなのよ、直人」 母親はなにか企むようにニヤリと笑った。 「ここ、シェアハウスにならないかしら。ほら、建屋はしっかりしてるから、水周りだけリフォームして。部屋数だけは多いから」 「シェアハウス?」 最近、よく聞く言葉だけれど、自分の周りには実際にそんな所は無い。 だいたいこんな所に住みたい人なんて居るんだろうか? 「ああいうのって、ハイツみたいな綺麗なやつなんじゃないの?」 直人は、訝しげに母親を見た。 「それがね、最近はこういう昔ながらの家に住みたいっていう若い人達も多いらしいのよ。ほら今の人達って産まれた時から綺麗なお家に住んでるから、こういうのが新鮮なんだって」 不動産屋に話を聞くと、探している若者もチラホラいるらしい。 「けどね、恋愛沙汰で揉めるのも困るから、男の子限定にすればいいと思うの、お母さん」 この母親は、昔からニコニコして人が良いフリをしているが、結局は、自分の思った通りに事を運ばせる天才だった。 何もかも用意周到にしてから、話を持ってくるのだ。 「…わかったよ。それで、俺は何をすればいいの?」 直人は、諦めモードで母親を見た。 「良かったー!じゃあね、直人は、シェアハウスの管理、お願いね」 「え?俺に丸投げってこと?」 嘘だろ?と思いながらも、いつ会社に辞表を出そうかと、直人は、もう考え始めていた。
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