第弐章 護るということ

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「もしも戦場に出たなら、僕は命を投げ出す覚悟です」 「ですが、僕が考える、命を投げ出す覚悟は、死ぬための覚悟という意味ではありません。命を懸けることを厭わない、と申し上げたほうが、より近いでしょうか」 「僕は、進んで死を受け入れたいわけではないのです。十束(とつか)家の血筋であっても、武家の者としての教育を受けてはいない僕です。誰かのために死ぬことを至上の美徳とは思っていません。ただ、それと同じ覚悟を持って臨みたい。正直なところを申し上げれば、今までは、僕の命など大した重みもなく、軽んじられても仕方のないものだという、諦めの認識でした。ですが、その〝生〟を懸けられる人に、僕は出逢えました」 「この命が価値のあるものだと教えてくれた人のため。僕に人を愛する心があることを気づかせてくれた人のため。そして、こんな僕を大事だと、家族だと告げてくれた人たちのため。ここぞというところで、この命を使いたい。使える者でありたい。僕が護りたい。そういう覚悟です」 「え? お前、そんなことを語ってきたのか?」 「はい」 「甲賀の旦那の前で、だろ? 恥ずかしくなかったか?」  恥ずかしい? 僕は、恥ずかしいことを口にしてしまったのだろうか。 「いえ、少しも」 「ははっ! 堂々と宣言してきたのか」 「はい。ですが、あの……これは言わないほうが良かったでしょうか」  僕はただ、甲賀様に決意を述べただけ。けれど、僕ごときが、おこがましかった?  「いいや。恥ずかしい云々は、からかい半分の単なる軽口だから気にすんな。お前の正直な思いを聞いてもらったんだ。良かったじゃねぇか。だから、甲賀の旦那も快く送り出してくれたんだな」 「あ、はい。甲賀様のご温情には、いくら感謝をしても足りません」  (さる)(こく)を告げる寺の鐘を聞きながら、お師匠様と会話を交わす。
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