第弐章 護るということ

3/6

22人が本棚に入れています
本棚に追加
/33ページ
 彰義隊の上野屯所から程近い寛永寺の門前に立つ僕の師匠は、今日は銀鼠(ぎんねず)色の袴をお召しになっている。偶然にも、僕と同じ色合いだ。  先ほど、長くお世話になった掛川藩邸の長屋を引き払ってきた。原田様の後を追って彰義隊に入隊するためだが、思っていた以上に難なく職を辞することが出来た。  ここまですんなりいくとは、実は思っていなかった。中屋敷の中間(ちゅうげん)の職を僕にご紹介くださった甲賀様のお叱りを受けることは覚悟の上で、お(いとま)を願い出たのだ。けれど、甲賀様が後押ししてくださった。  誰かのために死ぬのではなく、誰かのために〝生を懸けたい〟という僕の決意を認め、その場で職を辞することを許していただけた。  それだけでも充分ありがたいことであるのに、血筋も経歴も何も持っていない僕が即座に入隊できるよう、隊の頭取宛てに推薦状を記してくださった。加えて、出陣用にと、まだ袖を通していない小袖と袴を、当座の入り用の金子(きんす)とともに賜った。本当に本当にありがたい。  恩知らずの行いを叱責することなく、身支度の全てを整えてくださるという後押しで、甲賀様は僕に鼓舞を与えた。  それに報いなければ。庶子とはいえ、僕も十束家の男なのだから。
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加