第弐章 護るということ

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「で? 頭取への推薦状と一緒に、その小袖と袴ももらってきたのか? 俺と同じ色の袴に、市松模様の小袖とは、甲賀の旦那も趣味が良いじゃねぇか」 「あ、いえ、甲賀様が下賜(かし)くださったのは、紺青(こんじょう)色の小袖と藍鉄(あいてつ)色の袴です。今、僕が着ているのは、異母弟(おとうと)の宗次郎が僕のために縫ってくれていたものです」 「異母弟って、あれか。ちょこまかと良く動く、野うさぎみてぇな奴だな。いつも葵の傍らに控えてる小僧」 「そうです。その、野うさぎみたいな小僧です。宗次郎は十二の年から甲賀様の従者になりましたので、炊事も裁縫も得意なのですよ。正直、紺と白の市松模様の小袖は僕には派手ではないかと思うのですが、宗次郎が僕のために選んでくれたので、恥ずかしながら着用しています」  野うさぎみたいな小僧とは、言い得て妙だなと、笑みが零れた。小柄で働き者の宗次郎を表すのに、よく当て嵌まる。 「そうか? お前はよく日に焼けてるから、白と紺の生地は似合ってるがな。何より、袴が良いじゃねえか。今日の俺と同じ銀鼠(ぎんねず)色を選ぶたぁ、なかなかどうして、違いのわかる小僧だ」 「異母弟を褒めていただき、ありがとうございます」  宗次郎の美点は、甲賀様の従者としての面だけでは無い。十束家の継子(けいし)として、日々、真面目に勉学に励んでいる。  けれど、原田様はそういうことをおっしゃったのではない。身分の低い庶兄(しょけい)に似合うものを自ら縫ってくれる宗次郎の心ばえを褒めてくださったのだから、僕は御礼を申し上げるだけで良い。 「僕も、お師匠様と同じ色目の袴を身に付けられて嬉しいです」  こちらも本音だから、付け加えておこう。
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