終章 花のもとにて【一】

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「原田様、こちらへ」  すごいな、僕。手足に力が入らないと弱音を吐いていたのに、僕より長身の相手を支えて(ごう)まで走っている。 「ふくらはぎも撃たれてる。これでは戦闘継続は無理です。今すぐ、本所(ほんじょ)に向かいましょう」  霞がかかったように頭がぼうっとしていたのに、適切な判断も即座に下せている。原田様は重症者。朦朧としている場合ではない。予め定められた救護所へお連れしなくては。 「本所? 必要ねぇ。俺はここに(とど)まる。ここで最後まで戦う。じゃなきゃ、こんなざまを晒してまで彰義隊に入った意味が……」 「意味ならありますよ!」  最後まで言わせない。非礼を承知で怒鳴った。その間も止血帯で傷を覆う手は止めない。 「こんなざまって何ですか。今日の原田様の奮戦ぶりを僕は見てます。利き手に障害があっても、凄い戦いぶりでした。ですから、今は手当てしに行きますよ! あなた様の死に場所は、ここじゃありません!」  応急処置は済んだ。お師匠の身を支えて立ち上がる。  行き先は、本所猿江町。彰義隊の支援をしてくれている旗本屋敷だ。朝のうちに僕は既に、腕を吹っ飛ばされた隊長をそこへお運びしている。御屋敷のお医者様に原田様を診ていただくのだ!
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