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「強引だなぁ。おめぇは。男がまだ戦えると言ってるのに」
「恨んでいいですよ」
朝と同じ門からの脱出は難しいかと思ったが、砲撃の残骸のおかげで、却って敵に見つかりにくくなっている。火炎を噴き上げる長屋の脇を抜けつつ、恨みがましい口調に、どうぞ恨んでと返した。本音だ。
本当なら、僕は地に頭を擦りつけて謝罪せねばならない。原田様が撃たれたのは、僕のせい。そんなことをしている時間が惜しいから、本所へ急いでいるだけだ。
「いーや、恨むわけない。逆だ。感謝してる」
「え?」
「言ってくれたじゃねぇか。さっき。俺が今の自分の身体を『こんなざま』呼ばわりしたら、それを否定してくれたろ? あれ、嬉しかったぜ」
「原田様……」
止まない雨でぬかるんだ道に足を取られるも、僕に協力して片足を動かしてくれるおかげで歩き続けていられる。その人が零した言葉が、自責の念でいっぱいの僕の心に沁み込んできた。
「自分の身体だ。戦闘中は強気でいられるが、もう昔のようには戦えねぇって現実が腕を振り上げるだけでわかるから、つい、『こんなざまになっちまって』と、自分を卑下しちまってた。その歯痒さを、お前がさっきはらってくれた」
「僕は、本当のことを申し上げただけです」
砲撃音は少し遠くなった。だから、僕の声が震えてることに気づかれたかもしれない。
「遊撃の兵が突入してきた時も、槍を振るって応戦されるお姿に、戦闘中にもかかわらず、見惚れました。凄いお方です。僕のお師匠様は」
気づかれていてもいい。伝えなければ。
「不肖の弟子の命も助けてくださいました。あなた様の手助けをしたくて入隊したはずが、足を引っ張ることしか出来ていない僕の命を、守ってくださった」
涙は雨が隠してくれる。
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