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「原田様……さ、先ほどは、お救いくださり、ありがとうございましたっ」
この声だけが届けばいい。僕のために傷を負われたのに、そのことには一言も触れず。ご自分の不甲斐なさだけを口にされる、この見事なお方に。
「そうか。見惚れたか……ははっ。だろうなぁ」
「はい」
「そうか、そうか。じゃあ、お前、俺の弟子になれて良かったな」
「はい」
「槍術に剣術、用兵のいろはから、女遊びの極意まで。手厚く教えてやったもんなぁ。俺って、良い師匠だよな」
「はい。この上なく」
「惚れてもいいぜ」
「それはもう、とっくに」
「だろうな。知ってて言った」
「そう思っておりました。『原田左之助は、男が惚れる男前』でしょう?」
「ははっ。その通りだ」
軽い口調で言葉を交わす。戦場から離脱してきた者とは思えない、呑気なやり取りだ。
僕に恩を着せない、原田様の気遣い。僕はその優しさに甘える。甘えている。
——ここぞというところで、この命を使いたい。使える者でありたい。
あの覚悟は何だったのかと、歯噛みしながらも甘えている。僕は、いつになったら一人前の弟子になれるのだろう。
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