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「お願いします! 必ず助けてください!」
「十蔵。無茶な頼み事をするな」
「これを! 当座の治療費にはなるはずです。どうか、よろしくお願いします!」
「お前、聞いてなかったのか。その医者、さっき、金は要らねぇって言ってたぞ」
「全額、お渡しします。ですから、必ず! 必ず原田様を助けてください!」
「こいつ、師匠の言うことも聞いちゃいねぇ。頑固者め」
聞いてました。ちゃんと聞こえてました。一橋様に連なる御旗本だから、彰義隊士の治療は無料だと。
ですが、僕は他に何も出来ないから、せめて財布ごと渡してお願いするしかないのです。その財布も、藩邸を辞する時に甲賀様が持たせてくださった物ですけれど。中身には手をつけていないので治療費に充てていただけるはず。
「原田様。では、僕は上野に戻ります」
「おう。後でな」
「はい。後ほど」
旗本屋敷に詰めていたお医者様に、くれぐれもと念を押してから、また町へ飛び出した。
向かうは、上野。砲弾音はまだ鳴り響いている。
「ふふっ。僕のお師匠様は、どんな時も飄々とされておられる。あれほどに……あれほどの酷いお怪我なのに……笑って手を上げてくださった」
戻らなければ。後で、と約束したのだから。
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