終章 花のもとにて【二】

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「あぁ。雨がしみるな」  深く頭を下げた僕の肩から流れている血は、見られてしまっただろうか。  原田様が庇ってくださった時、実は僕の身体にも銃弾は届いていた。ご自分が重症なのに、どこも撃たれていないかと尋ねてくださるから嘘をついた。  本所までお運びする間に気づかれないよう、痛みは我慢した。原田様が呻き声ひとつ上げておられなかったのだから、僕もその嘘はつき通したい。弟子の意地だ。  血の色に染まっていた上野の山は、今はその色をさらに濃くしているのだろう。 「原田様。僕は必ず戻ります。あなた様のもとへ」  つと、振り向き、不敵な笑みを浮かべるお師匠様の名を呼んでから再び駆け出す。原田様の纏う、鮮血の(あけ)の色がひしめく場へ。  もう振り向かない。約束したのだ。後で、と。それに、もっと大切な約束もある。  ——十蔵。また一緒に食おうな。俺は、必ず帰ってくるからな。  満開の桜のもと、師匠とともに団子を食べる約束だ。その日は僕の奢りで召し上がっていただくと決めている。  だから、僕は行く。進む。  この道の先に、花舞う未来を見ているから——。 【了】
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