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目覚め1
青年は寒さで目を覚ました。頬に感じる水滴は雨だろうか。何故こんなところで、と訝(いぶかし)りながらあたりを伺う。
暗い……。そして、全身を苛むこの痛みは……?
歴戦のカンが不用意に動くことを自分に禁じていた。戦場で気絶し、死亡されたものとみなされ、そのまま放置された事もある。それも一度や二度ではなかった。
気絶したまま放置される状況といえば、大体は自分たちの隊が劣勢で、安否を確認できないまま退却を余儀なくされた時だ。
焦りそうになる心を鎮めるため深く呼吸をしながら、しばしあたりの気配を伺ってみるが、周りには人の気配どころか、雨音以外何も聞こえてはこなかった。
青年はゆっくりと左手を軽く握り、そしてまた開いてみる。多少の痛みは感じるが、動く様だ。そのままの動作で、軽くひじから下を上げてみる。
とりあえず、利き手は無事な様だ。
青年はそのまま左腕にすがる様に身を起そうとした。
「痛……っ」
その直後に右腕に鈍い痛みを感じ、体から力を抜く。流石に五体満足とはいかなかった様だ。
もう一度、今度はなるべく右腕に負担をかけない様心がけながら身を起こす。
その作業は慎重に行っても、想像以上に骨の折れるものだった。自分の体だというのにこれ程まで自由が効かないとは。
青年はそれでも何とか身を起こすことに成功し、すぐ近くにあった石の壁になんとか背中をもたせ、一息ついた。
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