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「……彩名!!……今日、僕は彩名に言いたい事があります!!……」
――ちょっと待って……なっ、なんで今?!……――動揺を表情に出さない事で精一杯の彩名は、ただただ拓海の目を見つめるしか出来なかった。しかしその彩名の様子がかえって周りの観客達に緊張感を与える事になり、先程まで盛り上がっていた観客達は手の平を返すように静かだった。
「……彩名!!……僕は彩名の事が好きです!!……付き合ってください!!!!!……」
と、拓海の彩名への愛の告白の叫びが、スピーカーを通じて会場中に響き渡った。
周りを囲むダンサー達と観客達、拓海の告白の叫びをスピーカーを通じて耳にした会場中の多くの来客、ステージ上のカラオケ大会の審査員や運営スタッフ達、そして純彦の名を騙る男性に注目されている事を肌に感じ、彩名はただただ拓海を見つめながら立ち尽くしていた。
――えっ…………何これ…………何で……今、なの…………いや、あの…………みんな見てる……瑠璃なんか写メ撮ってる…………この状況……どうすれば、良いの…………本当に、どうしよう…………――
しばらく彩名は何も言えず、時折周りを見渡しながら拓海の目を見る事しか出来なかった。周りの観客達は、固唾を飲んで彩名と拓海の様子を見守っていた。
だが、ふとステージ上にいる純彦の名を騙る男性の姿が目に入った時、宙ぶらりんになっていた彩名の意識がはっきりしたような感覚を覚え、すぐに落ち着こうと深呼吸をして再び周りを見渡した。
そして、心を決めた。
――……よし…………言うしかない……――
拓海との間にいる司会者からマイクをもらい、彩名は意を決した。
――宮沢君の為に……そして…………祖父の為にも……――再び深呼吸をした後、彩名は言った。
「ありがとう宮沢君…………でも……私は…………岩田純彦に成りすました偽者の前で、返事は出来ません!!!!!」
彩名の声は、スピーカーを通じて会場中に響き渡った。
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