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そらうみ祭りのメイン会場である猪原湖畔公園の中央にはイベント用の大きな野外ステージがあり、そらうみ祭りのメインイベントであるカラオケ大会が行われていた。野外ステージの周りはレジャーシートを敷いて座りながら楽しむ観客達で占められ、その後ろを囲むように多くの立ち見客で賑わっていた。
「空いてる、早く行こ!!」
立ち見客の人混みの中に大きな隙間を見つけた彩名達3人は、そこに立ってステージ上のカラオケ大会を眺め始めた。ステージ上では、1人目の参加者である60代男性が演歌を歌っていて、その参加者を中心にステージの下手側に簡易的な長机と幾つかのパイプ椅子で作られた審査員席が置かれていた。
1人目のパフォーマンスが終わろうとした時、彩名がふと審査員席の方を見た。目を疑った。
――えっ?――彩名の目線の先にあったのは、審査委員長の席がある長机の左端に下げている大きな紙で、そこには審査委員長の名前が書かれていた。
[審査委員長 岩田純彦(元ザ・オッカナビーズ ボーカル)]
――おじいちゃん?――彩名はすぐに、その席にいる審査委員長の顔を見た。明らかに純彦ではなかった。70代の老いは隠しきれないものの若い頃から全く変わらない清廉さを醸し出す姿の本物の純彦とは程遠い、言葉遣いは優しいが一目見てわかる程の強面かつ純彦が嫌うサングラスとアロハシャツを着こなすギラギラした60代っぽい男性の姿だった。
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