演じてみなきゃ分からない

6/7
前へ
/7ページ
次へ
真正面から見た彼女は、改めて見るととても美しかった。 クラスにいる時は大体遠くから見かけるぐらいだったが、こうして顔を合わせたのは殆ど初めてだろう。 漆原さんの美貌に見惚れそうになるが、私は我に返りすぐに返事を返した。 「わた……俺のこと知ってたんだ」 「知ってるも何も、私のクラスにお姉さんがいるし似てるから分かるわよ」 「そ、そうなんだ……?」 私と光のことを認識していたことに、少し驚いてしまう。 てっきり他の人なんて興味がないと思っていたからだ。 「けど、とりあえず助かったよ。あの先輩しつこいから困ってたのよね。ありがとう」 「いやいや、どういたしまして」 お礼を言う漆原さんに私は謙遜した。 とりあえず、勇気を出して家庭科室から出てきてよかった。 私はホッと胸を撫でおろすと、漆原さんは「さて」と家庭科室のドアの方に向かい取っ手に手をかける。 「お礼にお茶入れるよ。演劇部の部室に茶葉が揃ってるから一緒に行こう」 「えっ!そんなことまでしなくても……!」 「私がお礼をしたいんだから素直に受け取りなよ。ね?」 漆原さんは小首をかしげて私に訊ねてくる。 彼女の強い眼差しは、Noと言わせないほどの圧を感じ私は断る理由を失ったのだった。 「では……お言葉に甘えて」 「うん。じゃあ行こうか」 漆原さんは私に笑顔を向けると家庭科室のドアを開け、廊下に出る。 すると、彼女のブレザーのポケットから生徒手帳がするりと床に落ちた。 「漆原さん、これ落とした……よぉ!?」 拾った生徒手帳の裏を見てしまい、私は一番最初に目に入った欄を見て驚きを隠せなかった。 左には漆原さんの顔写真、右には名前、クラス番号、そして性別。 彼女の性別は女性と誰もが思っただろう。 しかし、現実は簡単に人を裏切るのだ。 男。 もう一度言おう。 漆原望海の生徒手帳の性別欄には「男」と記載されていたのだった。 「ああ、ごめん。……野風君?」 「漆原さん、俺の見間違いかもしれないけど……「男」ってどういう事?」 私が訊ねた瞬間、家庭科室の中は暫く沈黙が流れる。 まずい、聞いてはいけないことを聞いてしまっただろうか。 もし、生徒手帳に記載ミスされていたら物凄く失礼な話だ。 謝ろう、今すぐ謝ろう。 私は冷汗を垂らしながら彼女に謝罪しようとした。 しかし、彼女は私の予想と全く違う反応をしたのだった。 「あーあ、バレちゃったか。女役を極めるために卒業まで隠しておこうと思ってたけど、上手くいかないもんだね」 「う、漆原さん?」 「まあ、野風く……いや、にならバレてもいいか」 「ええっ!?」 すると、彼女はずいっと整った顔を私に近づけさせた。 「君、本当は俺のクラスにいるの方だよね?」 「なっ!?何でわかっ――」 私が彼女に驚いている間、漆原さんは素早く私が被っているかつらを勢いよく取り上げた。 中でまとめてあった肩まである私の薄茶色の髪はパサリと下りていく。 「やっぱり。男にしては声は高いし肩幅も狭い、俺が知っている弟君はもう少し顔立ちも堅い感じだからすぐに分かったよ」 「そ、そんな~!!」 あまりのバレる早さに私は膝から崩れ落ちた。 まさか、すぐに漆原さんにバレるとは思わなかった。 「……いつから分かってたの?」 「最初から」 「噓っ!?」 途中からではなく、最初からと言われ、私は愕然とする。 せめて噓でも途中からと言って欲しかった。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加