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「あんな噛み嚙みの演技見たら分かるよ。演劇部のエースを舐めないでくれるかな?」
「はい、舐めてすみませんでした。反省します」
「いや、冗談だよ。別に怒ってないから」
すぐに頭を下げた私を漆原さんは顔を上げるように言う。
それはそうだ。
相手は演劇部のエース。
あの大根芝居なんて一発で分かってしまうなんて当たり前だった。
「でもまあ、俺が弟君に頼んだからすぐに分かったけど」
「……え?」
「あっ」
思わず言ってしまったという顔で、漆原さんは小さな声を出してしまう。
「どういう事?」
私はポカンとした顔で彼の顔を見た。
すると、漆原さんは誤魔化せないと思ったのか「コホン」と咳払いをした後私に向き直る。
「俺が弟君……光に君との接点を作るために、野風さんを男装させて話しかけてもらえるように頼んだんだ」
「……はあっ!?」
彼の言葉を聞いた瞬間、私は酷く驚いた声を出してしまう。
状況が全く頭に入ってこなかった。
「え、えっと……ちょっと整理させて……。つまり、漆原さんが私との接点を作る為に、光になりきり作戦を持ち込んで私にやらせたってこと?」
「今もそう言っただろ……」
漆原さんは白い頬を赤くさせ、私から目を逸らす。
だが、今になって光がなりきり作戦にあまり積極的ではないことが分かった気がした。
「けど、何で私を光になりきらせて近づけさせたわけ?別にクラス一緒なんだから、そんな回りくどいことしなくていいのに」
「何でって……」
すると、漆原さんは私に近づき真っ赤にした顔で告げた。
「一目惚れした人に近づく勇気がなかった。それだけだよ」
「えっ……」
漆原さんの言葉を聞いた後、私はしばらく彼の熱い眼差しから目を離せなかった。
「一目惚れ」
それは恋愛ドラマや小説でしか聞いたことがないセリフだ。
しかし今、私はクラスの美少女に偽る美少年・漆原望海にそのセリフを言われている。
彼の気持ちを知れたのは、演じてみなきゃ分からない事だった。
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