演じてみなきゃ分からない

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夏の暑さが身にしみる高校二年生のある夜のこと。 部屋で勉強していた私の部屋で、双子の弟・(ひかる)がとんでもないことを言い出したのだ。 「灯子(とうこ)頼む!俺になりきって、お前のクラスにいる漆原(うるしばら)さんに話しかけて欲しいんだ!」 薄茶色の頭を掻きながら恥ずかしそうに放った彼の言葉に、私はしばらく沈黙を流した。 「……今なんて?」 「だーかーら!俺になりきって!お前のクラスの可愛い女子の!漆原さんに!話しかけて欲しいんだ!」 「ごめん、声が大きすぎて聞こえないからもう一回」 「何度言わせるんだよっ!?」 からかっていると思った光は、顔を真っ赤にして私に怒鳴る。 とりあえず、私は弟から詳しく事情を聴き理解を求めた。 「えっと……つまり、光は漆原さんのことが好きで是非お近づきになりたいけど話しかける勇気がなくて困ってた。だから、自分にそっくりな私がなりきって彼女と接点を作ってほしいと?」 「勇気が出ないんじゃねえ!漆原さんの美しいオーラが邪魔をしているんだ!」 「それを勇気がないって言うんだよ」 私は言い訳をする光に静かにツッコミを入れた。 私と光は、一卵性の双子であり髪型と体格以外顔のパーツはよく似ている。 薄茶色の髪色に奥二重の涼しげな朱色の瞳、やや低めの鼻筋に小さな口の形。 例え、福笑いでお互いのパーツを混ぜてもきっと違和感なく完成させることができるだろう。 私は考える素振りを見せるように、あごに手を当てしばらく唸り始める。 そして、私は光に向き直り彼の右肩に手を置いた。 「野風光君、君のためにあえて言っておこう。……無理だね」 「はあ!?」 断言した私に光は驚いた顔をする。 「可能性皆無。成功率0%。人を使うところからにして失敗確実。諦めな」 「いや、待て待て待て!!まだ何もしてねえのにすぐに決めつけるなよ!!」 哀れな目を向ける私の手を光は勢いよく振り払った。 「光君よ、私もそんなに暇じゃないの。君の計画性のないおふざけに付き合っていられません。さあ、帰った帰った」 部屋にいる光に「しっしっ」と手で払うと、私は再び机に向かい直す。 これだけ言えば懲りるだろう。 そう思っていたが、現実は甘くなかった。 奴がそこまで本気だとは、私は心の底から思わなかったのだ。 「だったら、これで取引だ」 「えっ?」 光は私のところまで近づき、机の上にあるものをバンッと叩くように置いた。 目の前のものに、私は目を大きくした。 「こっ……これは……!!」 そこには、今人気沸騰中の台湾カステラの店の優待チケットだった。 しかも、一枚だけではなく五枚も礼儀正しく並んでいる。 「一体どこで手に入った!?」と聞こうとしたが、光はその前に先手を打ってきた。 「これは前払いだ。もし、成功したら次はパンケーキの店、ワッフルの店のも用意してやる」 「……その話、乗った」 こうして、私の「光になりきって漆原さんを落としましょう作戦」が始まったのだった。
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