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チャイムが鳴った。
優雅で、そして残酷なチャイムだ。
彼女の胸は、毒に侵されたかのように激しく波打った。
「ごめんなさい、王子様。もう帰らなくてはなりません」
その瞬間、王子の顔が曇り、彼女は罪悪感に支配される。
「どうしてだ?私と踊るのが、楽しくなかったのですか?」
「いいえ。とても楽しかったわ。ですが、もう時間なんです」
彼女は自分の正体がバレないうちに、急いで走った。
「待ってくれ」
王子の低く悲しそうな声が心の奥を突き刺す。
そして、右腕を強く引っ張られた。
王子の温もりが伝わってきて、彼女は唇を強く噛みしめた。
今日は本当に楽しかった。
もっと、ここに居たい。王子様と一緒に踊りたい。
でも、それは許されない。
__もうすぐ、魔法が解けてしまうのだから。
王子が私のことをダンスに誘ってくれて、優しくエスコートされたときは、本当にドキドキした。王子も少し赤くなっていたし、その美しい顔で私だけを見つめて、少年のように笑ってくれた。
なんて夢みたいな、素敵な時間だったのかしら。
__やめなさい__
理性が私に訴えかける。
そうだ。本当は、ここに来ることさえ許されなかった。
これはすべて、一夜の魔法だ。
王子に、私が貧しいことがバレたらどうなるのかしら。
きっと、軽蔑される。
嫌だわ、そんなの。
王子様、何も言わずに終わってしまってごめんなさい。
でも、思い出は綺麗なまま終わったほうが良い。
今日は、特別な一日なのだから。
彼女は王子の手を振りほどき、急いで走った。
「待ってくれ......!!」
さっきよりも焦ったような王子の呼びかけを無視し、階段を駆け下りる。
だが、高いヒールで走るのは思ったよりも難しい。
彼女は足を踏み外し、靴が脱げてしまった。
脱げた靴を履こうと思って振り返ると、王子が追ってきているのが見えた。
彼女は仕方なく、靴を履くことなく走り出した。
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