疑問だらけの機械使い、月夜に危ない橋を渡りて薔薇を求む

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 新世界へと続く扉を前に、俺は呟いた。 「行かなくては。もう迷ってる時間はない」  天を仰いだ。いつの間にか空には綺麗な満月が浮かんでいる。一体どれほどの時間、俺はここで立ち止まっていたのだろう。 「やれる、やれるはずだ。俺ならきっと」  自分の頬を両手で打ち、気合を入れる。  深呼吸を一つすると、俺はドアノブに手をかけた。 「うわっ、何だこれは」  俺は思わず息を呑んだ。  空間を縦横無尽に走る蔓に奇妙な形の葉。美しさを競い合うように色彩豊かに咲き乱れる花々。見渡す限りの新緑の世界が、俺の目の前に広がっていた。 「早速あいつの出番だな」  震える手つきでポケットを探る。取り出したのは掌サイズの機械だった。 「頼むぜ相棒」  俺の言葉に呼応するかのごとく、手の中で機械仕掛けの相棒は光を帯び、鳴動した。 「ゴヨウケンヲドウゾ」  文字通り機械的な問いに、俺は答えた。 「この植物を解析して欲しい」 「カシコマリマシタ」  相棒は内蔵された四つのレンズを目の前の植物に向けた。数秒後、 「カイセキカンリョウイタシマシタ」  相棒は解析結果を報告し始める。 「コレハ、シンゴニウムトヨバレルショクブツデス。サトイモカニブンルイサレマス」  俺は目を剥いた。 「これが芋だと? そんな馬鹿な」  黄緑色に散らばる赤い斑点。こんな毒々しい模様を葉に浮かべる芋があるだなんて、信じられない。 「となると、この辺りの植物は全部野菜ってわけか……やはりここは未知の世界だな」  顎に伝う汗を拭った。辺りを見渡す。異形の植物達が俺を取囲み、監視しているように思えた。鳥肌が立つ。恐ろしい想像から逃れるために、俺は必死に頭を振った。 「俺は諦めない。アレを見つけ出すまでは、絶対に帰るわけにはいかないんだ!」      
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