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相棒の機能を頼りに目当てのものを探しさまよう道中、いくつもの試練が俺を待ち受けていた。肌を切り裂く刃の形をした葉に、鉛玉のような果実を降らせる樹。魅惑の香りを漂わせる巨大花の前では、危うく意識を持っていかれそうになった。
「いったい、どこにあるんだ?」
俺は立ち止まり、俯いた。
歩き続けても変わらない景色に、正直心が折れそうだった。胸の中で大きく膨れ上がる疑問。俺は自分に問いかけた。
なぜ俺がこんな目に? こんな危ない橋を渡る必要なんてあるのか? 本当は無意味なんじゃないのか。
「いや、違う」
声を絞り出し、歯を食いしばる。
「君のために。君の笑顔のために俺は……ん?」
顔を上げた俺は、ふとあるものに目を奪われた。ふらつく体に鞭を打ち、歩み寄る先にあったのは大きな壁画だった。
「この絵はもしかして!」
緩やかに波打つ層が渦を巻きながら幾重に連なるこの姿。間違いない。俺は慌てて相棒を取り出した。
「絵の下に書かれてる文字を訳してくれ」
「カシコマリマシタ」
見慣れない文字に四つのレンズのピントが合う。俺は固唾を呑んで見守った。
「ホンヤクイタシマス」
相棒の言葉に、心臓が早鐘を打つ。
「コノサキニ、バラガ」
突然、相棒の翻訳が止まった。理由はすぐに分かった。背後に気配を感じた俺が、咄嗟に相棒の停止ボタンを押したからだった。
生唾を飲み込む。俺はゆっくりと振り返った。欝蒼と茂る葉の隙間から覗く二つの眼。何者かがこちらを睨んでいた。
「さては……この地に住まう先住民か?」
こういう場合敵意を見せないのが一番だ。
俺はぎこちない笑顔を浮かべた。
「勝手に縄張りに立ち入ってすまない。実は探し物をしていて、それで」
言い終える前に俺は固まった。茂みから姿を現したのは、見上げるほどの大男だった。筋肉質な体躯を黒光りさせながら、大男は口元を微かに動かしている。
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