01.getting mixed up in.

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警察の人が帰っていき私と俳優という彼だけが残された。二人になって、未だに何かを考えている彼に少し居心地の悪さを覚えて身じろぎする。 某アニメキャラではないけれど、こういうときどんな表情をすればいいのかわからず、なんて声を掛ければいいのかもわからないから俯いて黙っているしかなかった。 「ねえ、俺のこと本当に知らないんだよね?」 「・・・そう何度も言ってますけど。」 「日本の俳優で知ってる人とかいる?」 「・・・竹野〇豊とか反〇隆〇とか?」 「ビーチ〇ーイズかよ。」 他も知ってる俳優はいるけれど、それも最近の俳優ではなく引退した俳優のほうが多いような気がする。 ここ最近は洋画のほうが見ることが多いし、サブスクに上がらない限りには見ることがなくなったから、この人が誰であろうと自分が見ている映画や動画チャンネルに出てこないと見ることはないと思う。 「じゃあ、自己紹介しようか。今から知ってもらえば俺の出てる作品も見てくれるでしょ?」 「・・・まあ、見てと言われたら見ますけど、映画館にはいかないですよ? サブスクにあれば見ます。」 「DVD貸すよ。」 「・・友達かよ。」 いいじゃん友達になろうよとコミュニケーション能力の高さを発揮してくる彼はよろしくとばかりに手を差し伸べてくる。差し出された手を凝視していれば布団の上に置かれた手を勝手に取られてブンブンと軽く振られる。 その男の人の筋張った大きな手に驚いてびくりと体が反応する。 「俺は柴咲ケイジ(しばさきケイジ)。28歳で今公開中の映画の主演やってます。テレビゲームが趣味で、仕事も好きだけど、そっちのほうが好き。はい、君の番。」 「・・・一ノ瀬愛奈(いちのせあんな)。26歳です。」 「・・・」 「・・・」 「それだけ?」 「・・・他に何を言えばいいですか?」 「愛奈ちゃんの趣味は?」 「・・・なんだろう。音楽とか?」 「そうなの?どういうの聞くの?」 なんだこの人、めっちゃ聞くじゃん。 ぐいぐい来る彼に若干引きながら答えれば、「俺もそのバンド聞く! いいよな!」と素晴らしい笑顔で言ってくる。その整った顔にドキリと胸が鳴るのはきっと世の女なら誰でもなるのではないのだろうか。 ノリが高校生とか学生のような人だな。 人懐っこい感じの彼は正しく私とは正反対のタイプだと思った。
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