世紀末の日本にて

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 コミュ障女子には、タクシーの運転手に道順を説明する、という能力はない。  だから、××町へ行ってください、で、あとは任せる。  繰り返すが、この話は平成はじめ、バブル崩壊後のことだ。当時はスマホもカーナビもなかった。  女子力ゼロで見た目はほぼババアだが、それでも二十代女子にとって、おじさんと密室で二人きりは……自意識過剰かもしれないが、やはり緊張する。  いわゆるタクシーの運転手と会話なんて、コミュ障にできるわけがない。だから、私は目を閉じて、眠るふりをした。深夜二時。この時間帯なら許されるはず。  が、その運転手はとーっても気のいい人だった。  デブスなコミュ障女子なんか放置してくれればいいのに、彼はサービス精神旺盛な人だった。  だから、彼はある大通りに差し掛かると言った。 「ここはね~、有名なところなんだよ」  コミュ障女子はあまり教養がない。賢くないのに○○大学に無理矢理入学した人間だから、大学受験に必要な知識で、脳はマックスなのだ。 「えー、なんで有名なんですかあ?」  教養深い運転手に、私は尊敬の念を込めて尋ねた。実際、こういう仕事の方の知識は深くて広いのだ。 「ああ、ここはねえ、江戸時代の処刑場だったんだよ」
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