4人が本棚に入れています
本棚に追加
世紀末の日本にて
メインタイトルが長いからサブタイトルはシンプルにしてみた。
時代は平成になったばかり。
タイトル通りのことがあったので、私はタクシーに乗った。
私の会社は、いわゆるブラック企業ではなかった、多分。
当時、私は二十代の女子だったが、その時も今も、庇護欲をそそられるタイプではない。かといって、バリキャリでもない。今も昔も、ただのドンくさい女子だ。
深夜二時まで仕事をしていたのは、もちろん、純粋に私の仕事能力の問題だ。
当時、女子があまり夜遅く残ると叱られたので、サービス残業になったが、それでもブラック企業ではなかった、と思う。
私が遅くまで残っていたのは、絶望的にコミュ障だからだ。
私は……おそらく多くの日本人がそうかもしれないが、人に質問ができない。わからないことを「わからない」と宣言できない。
これはコミュ障というより、見栄っ張りなのかもしれない。
見た目も中身もどうしようもない女子ゆえ、せめて賢いふりをしたい。全然興味がないのに、アートな単館もの映画を観たり、美術展に行ってみたり、小難しい歴史書を読んでみたり。が、動機が純粋な知的好奇心ではないため、記憶に残るのはベッドシーンとエロネタばかり。
なお日本書紀はエロネタがすごい。これが本当に日本の正史でいいのか、不安になる。
閑話休題。これ、吉川英治の三国志を読んでから、一度使ってみたかった四字熟語。あ、もう一度、閑話休題。
見栄っ張りの性格が災いし、それなりの大学に行ったものだから、始末に負えない。
このため、職場の人も、最初、私ができる人間だと勘違いしてくれた。が、所詮、付け焼き刃の受験勉強で勝ち取った学歴、三十分も一緒に仕事をすれば、バレてしまう。
取引先の人に「○○大卒には見えませんね~。どうみても中卒ってキャラクターですよ」と言われるぐらい。多分、彼は私を褒めたのだろう。
もちろん、○○大卒の人間だと自分から積極的に吹聴したりしない。が、聞かれれば素直に答える。というか、うちのような小さい会社で○○大の女子は珍しいからか、入社時には全員知っていたようだ。
自分が無能だとバレているにも関わらず、唯一の取り柄にしがみつき見栄を張る。
だから、ますます人に質問ができなくなる。
質問ができないまま仕事をする……その結果が、深夜二時までの残業となるのだ。
二十代コミュ障女子にとって、タクシーに乗るのはものすごくハードルが高いが、それでも私はタクシーに乗った。そこらのビジネスホテルに泊まったほうが安上がりかもしれないが、コミュ障女子にとって、それはもっともっとハードルが高い。
ということで、私は深夜二時、タクシーに乗った。
最初のコメントを投稿しよう!