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 「いやぁぁぁぁぁぁぁ。どうしては? どうしてこんなことに!」  聖堂の中に、私の甲高い悲鳴だけがこだまする。  変わり果てた彼の姿。  どす黒い血にまみれ、その顔色は蒼白だ。  つい昨日、にこやかに別れを告げたはずだった。  もう息すらしていないその亡骸は、私の力を持ってもどうすることも出来ない。 「ああ、なんで……どうして」  どうしてこんなことになってしまったのだろう。  たとえ許されないとしても、私には彼だけが色付く世界だったのに。  私がいるこの神殿は、いや、生きてきた場所は全ての物が白く統一された世界だった。  私は物心つく頃からずっと、ここに入れられている。  神を祀る神殿に仕える聖なる聖女として――  神の奇跡ともいえる聖なる力を使うことが出来たため、私は神殿に保護された。  ただ保護と言えば聞こえはいいが、実の両親によって私は売られてきたのだ。  顔も何も覚えていないくらいの幼い頃に。  その時から私の世界はここだけになった。  白く、狭く、神を崇める以外には何もない私の小さな世界(とりかご)。  抜け出すことも、外へ行くことも許されない……。 「(わたくし)にとって、あなただけが色づいた世界だったのに……」 「い、いけません聖女様。お手が汚れてしまいます!」  血まみれになった彼に触れた私を、神官たちが制止した。  汚れる?  私は彼の血で赤く染まる自分の手を見た。  彼の色に染まった手。 「ああ、そうね……」  神はいつだって見守って下さるだけで、助けては下さらなかった。  私をただこの白い世界に押し込め、縛り付けてきただけ。  そんなものにもう私は…… 「聖女様?」  その場に居合わせた皆が、私の行動の意味を分からずにいた。  私は屈んで彼の腰にあった剣を引き抜く。  剣すらも、誰のとも言えない血で汚れていた。 「な、何をなさるのですか! お、おやめください!」 「何を? 私の世界を創り変えるだけよ。こんな醜い真っ白な世界など、もう必要ないから」  私は神官にそのまま剣を振り下ろした。 「ぎゃあぁあぁぁぁぁ」  私の世界が赤く染まっていく。  そして恐怖するように逃げ惑う神官たち。 「あははははは。ああ、綺麗ね。そうでなくちゃ。世界は色づいていなければ、意味がないもの。(あなた)が私から唯一の色を取り上げになるから、こうなるのですよ」  剣を持ったままゆっくりと歩き出す。  私は、私の世界を赤く染めるために――
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