3項 窃盗罪

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力こそ全て。 それ位単純な方がいい。 周りを気にせず、何をしても怒られない。 俺や仲間が煙たがられ居場所をなくす事もない。 ワザワザ校舎の裏や屋上、深夜に出歩かなくても 堂々と商店街の真ん中を真っ昼間から歩き 喧嘩で領地を得た俺たちをみんなが称える。 そんな世界だったらおそらくおれは 勇者なんだろうな。 そんな妄想を描き楽しい時間を過ごす。 グーッ! するとふと鳴った腹の音が現実に引き戻す。 「朝ごはん食べていきなさい」と、言われたら 逆に食う気が失せ、 いつもながらに朝ごはんも食べずに 家を出たあきや。 「何か食うか。」 朝、昼、晩なんて関係者ない。 食いたい時に食いたい物を食う。 朝食と昼食の間て微妙な品揃えのコンビニの棚の 陳列の品を定めると、 あきやの大好きな『小倉マーガリン』のパンが 1つだけあった。それと・・・ ドリンクの冷蔵庫から『まろやかコーヒー』を 取り出す。 この2つの組み合わせが最高だ。 すると、 ふと不安がよぎる。「財布持ってきたっけ?」 持っているペシャンコに潰したカバンの 中身を探る。 上着やズボンのポケットを探る。 しかし、財布は見つからず かろうじてあったのは 上着のポケットに100円玉1枚と 10円玉2枚だった。 「マジか、、、」 120円じゃあパンは買えてもコーヒーは買えない。 この黄金コンビがいいのに・・・ あきやの脳裏に一つの答えが浮かぶ。 『パクるか。』 それは万引き。 あきやは万引きはこれが初めてではなかった。 初めは頭髪に使うジェルを。 次にCD、ゲームソフト。 凄いときは携帯ゲーム機本体を盗んだ事もあった。 パンやコーヒー位造作もない。 あきやは周りを伺う。 コンビニにはあきやの他にギャルっぽい女子高生が いるだけだった。 あのギャルなら問題ないだろう。 今度は何かを探す素振りをして店内を1周する。 こうしてまずは防犯カメラの位置を把握する。 どうやらトイレの前が死角らしい。 あそこまで行ってカバンにものを隠す。 ただそのまま隠したのでは その前後の防犯カメラの映像を解析すれば 手に持っていたものが無くなっているがバレバレだ。 そこで雑誌。 雑誌の影に隠して元々持っているかいないか 解らないようにする・・・っと。 そういう事には頭が回り そういう事にはあきやは手慣れていた。 プロのようにコンビニ1周で難なく防犯カメラの 死角を見つけ出し、 且つその行動が不自然にならないように 買う気もないのに雑誌を手に取る。 計画はこうだ。 『この雑誌を利用して意識をコーヒーからずらす。 その後は雑誌をちょっと読むフリをしながら 棚に戻し、パンだけを買う。 ドリンクをカバンに入れながら 平然と目の前の店員を相手にする。』 そこまで堂々とされると店員も逆に 疑わないもんだ。 もちろん見つかれば万引き。窃盗罪で捕まる。 20歳未満であれば罪に問われる事は少ないが 家庭裁判所へ送られ、 賠償責任のある親に賠償請求されたり 過度の窃盗や常習性が高い場合 少年院へ送られる可能性もある。 つまり、リスクは付き物だ。 しかし、そのリスクがあるほどドキドキ緊張もし それが逆にスリルで楽しくもあった。 で、なければ何が楽しくてコーヒー150円程度で 捕まりたいと思うか。 そう思いながら、すんなり死角で コーヒーをカバンに詰め込む。『よし!』 関門を突破する度に声を出したくなるが それを押し殺し、 平然と雑誌を元の位置に戻す。 声にも態度にも出してはいけない。 そう思うといちいちドキドキする。 さて、ここからが一番の難所だ。 ポケットから120円をチャラチャラと取り出し 掌に広げで見つめる。 あとはこのお金でパンを買うだけ。 ここからが正念場。 そうしてゴールのレジを見つめた。 レジの店員は何も気付いていないようで レジ横の揚げ物を詰め込んでいた。 イケる! そのあきやの不意をつくように横から声がかかる。 「ちょっと!何してるの!?」 その声にあきやは心臓が飛び出そうなほど驚く。 思わず出していた120円を握りしめる位。 『まさか、、、バレたのか?、、、』 それでも飛び出しそうなドキドキをグッとこらえ あきやは挙動不審に恐る恐る振り向いた。 その声の主は女子高生だった。 女子高生は不審がりながらあきやの腕を ぐっと取ると、引っぱるように レジに向かい歩きだした。 『やべ〜〜!このままだと捕まる!!』 あきやの脳裏に捕まった後の人生が浮かぶ。 万引きで逮捕→常習だとバレて少年院へ→ 釈放後、少年院から来たというレッテルが貼られる →どこへも就職が見つからない→ホームレス又は ヤクザになり若くして亡くなる。 『いかん!人生が終わってしまう』
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